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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)2481号 決定 1968年11月07日

主文

本件上告を棄却する。

理由

<前略>

被告人坂本秀夫の弁護人植木幹夫の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、上告適法の理由にあたらない。なお、原判決は、同被告人が、昭和三九年七月一六日に暴力行為等処罰に関する法律違反により懲役八月に処せられ、控訴および上告が棄却されて昭和四〇年一二月七日に確定し、昭和四一年九月一三日に右刑の執行を受け終つたものであるとの前科の事実と、被告人が、昭和四〇年六月下旬ごろから昭和四一年一〇月一七日までの間、けん銃等を不法に所持していたとの第一審判決判示第一の事実との累犯関係の有無について、右けん銃等の不法所持の犯行は、その最初の所持行為に着手したときに全体としての不法所持罪の着手があつたものとみるのが相当であるから、その最初の所持の始められた当時、いまだ前刑の執行を受け終つていなかつたときは、たといその後、右所持の継続中に前刑の執行を受け終つたとしても、全体として再犯の要件を備えるに至るものと解することはできないとし、本件不法所持が始められた昭和四〇年六月下旬ごろには、いまだ右刑の執行を受け終つていなかつたことが明らかであるから、累犯関係は無いものと解すべきであると判示している。しかし、刑法五六条一項にいう「罪ヲ犯シ」とは、犯罪の実行行為をしという意味であるから、累犯関係の有無は、前刑の執行を終りまたは執行の免除があつた日から五年の期間内に、犯罪の実行行為をしたか否かを基準にして決すべきものであつて、五年の期間内に、犯罪行為の着手があつたか否かのみを基準にして決すべきものではない。明治四三年一〇月一一日大審院判決(刑録一六輯一六八頁)および昭和二四年四月二三日第二小法廷判決(刑集三巻五号六二一頁)が、五年の期間内であるか否かを犯罪の着手の時を基準にして決すべき旨判示したのは、五年の期間内に実行行為の着手があれば終了の時が五年の期間後であつてもよいという趣旨であつて、いかなる場合においても、五年の期間内に犯罪の着手がなければならないということを意味するものではない。ところで、原判決の認定した前記事実関係によると、同被告人は、懲役刑の執行を受け終つた昭和四一年九月一三日以降も、同年一〇月一七日までの間、引き続いてけん銃等を不法に所持していたというのであるから、これが、右にいう「罪ヲ犯シ」の要件をみたすものであることは多言を要しないところである。そうすると、これと異なる見地に立つて、累犯関係の成立を否定した原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるが、本件は被告人のみの上告にかかるものであり、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

<中略>

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全一致の意見で、主文のとおり決定する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

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